YORIAI 1-1-1 Vol.6

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YORIAI1-1-1 VOL.6

「 越境するデザイン ー 新たな環境づくりへ向けて」

  語り部:前島 淳也(デザイナー)

 

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グラフィックは、環境を作り出す力

冨田:

今回、展示された作品についてお話頂く前に、簡単に、前島さんがどんな考えで普段仕事をされているのかお話いただけますか?

前島(敬称略):

はい、皆さんに僕の普段している仕事を説明するにあたって、ちょっと僕の卒業制作のお話をさせて頂きたいと思います。

もう10年以上も前の作品にはなるのですが、何を作ったかというと、裸の赤ん坊の彫刻作品を、様々なマテリアル、物質を使って作ったんです。例えば花や苔、ラインストーンやコンクリートなどで赤ん坊を作りました。

裸の赤ちゃんの肌って、すごく柔らかくて、親近感があり優しいものなんですけど、そういうものがいろんな物質に変わっていくことによって、怖いって思う人もいれば、綺麗って思う人もいたり、つまり人によって感覚の感じ方が違うっていうことを、この作品を作って気がつきました。

この気づきは、今に至るまで重要なきっかけとなっていて、僕は現在、グラフィックデザインの仕事を生業としてるんですが、人に与える感覚っていうものについて考えながら作るということが、大きな軸になっています。

冨田:

人に与える感覚を大事に、ということですが、具体的にはグラフィックデザインや広告を作るにあたって、どんな点を気にされていますか?

前島:

一見、グラフィックデザインや広告の仕事って、どれだけ人の目を引くか、いかに派手に表現して目立たせるのか、っていうふうになりがちだと思いますが、僕がやっている仕事はもうちょっと、人の本来持っている繊細な感覚に訴えられるような、そういう部分を大事にしているつもりです。

確かに、もっと目立たせてくれっていう要望もあることはあります。目立たせることはできるけど、それで、人と環境の関係性っていうものが、損なわれる場合もあるんじゃないかな、と。

グラフィックデザインって、人とモノとを繋ぎながら環境そのものを作る仕事でもあると思っているので、全体性からの視点が大事だと思うんです。どんな場所で、どのように人の目に映って、環境をいかに作っていくのか、そういうところまで気をつかっていたいと心がけています。

 

冨田:

確かに、今回の展示にあたって、この店舗を相当見てらっしゃいましたよね。何回か通ってましたよね。

前島:

通いましたね。むしろ、内装業者なんじゃないかってくらい。(笑)

冨田:

環境をどう作るか、っということを大事にされてるんですね。

前島:

そうですね。

例えば、このお店の隣には、ビルの中庭のスペースがあります。このスペースでは、ビジネスマンが休憩したり、話し合ったり、また色々な人が通りかかったりしてますが、そうした人たちがこの店のウィンドウをふと眺めたとき、一体どう見えるだろうかっていうことは、すごく想像しています。環境に、どのようにはまっていくかということは、すごく意識しました。

そのくらい、自分がやっているグラフィックの仕事というのは、環境性の中で成立するということだと思っています。

 

作家の表現性とコラボレーションすること

冨田:

今回展示では、作家さんとコラボレーションされていますね?

前島:

はい。今回、とみひろさんで展示させて頂くにあたって、作家とコラボレーションしたいって思ったんですね。

普段、仕事柄、エンジニアの方など技術系の方々と一緒に働いたりすることはもちろんあるんですが、そうした時は、基本的に僕自身が考えたことを、どうやって形にしてもらうかっていうことに尽きます。

ですが、作家さんは、ある種、一つの特化した技術を持ちながら、かつ表現したいものがある方々です。そうした方々とコラボすることで、新しい表現が見い出せるんじゃないかと思い、今回2人の作家さん、アーティスト・彫刻家の石川洋樹さんと、テキスタイルアーティスト・染色作家の古屋絵菜さんとコラボしました。

冨田:

作家さんとコラボレーションするっていうことは、珍しいんですか?

前島:

そうですね。一方的に指示を出して、誰かと仕事をするっていうことはよくあることですけど、今回は、作家さんが持っている手仕事の表現性という部分とコラボしたわけなので、関わり方は違います。

冨田:

なるほど。アーティスト・彫刻家の石川洋樹さんとコラボレーションされた作品について教えていただけますか?

前島:

はい。石川さんと作った作品は紙の積層物で、手で紙を切って、それをひたすら積層させるっていう作品です。

今回の展示のテーマそのものが、時間の経過を可視化できるような痕跡を積層させることで、時間そのものを表現するという試みもあったので、紙を1枚1枚手で切って重ねていって、そして立体作品にするっていう作品です。

 

 

冨田:

窓際に飾られている赤、黄、青の大判スカーフは、染色作家・古屋さんとのコラボレーション作品ですよね。本日は、その古屋さんにもお越しいただいています。

前島:

古屋さんは、普段は植物や花とかを描いてとても美しい作品を作られているんですけど、今回は、そういった部分から一度離れてもらって、とにかく色を重ねてもらって、色の積層物のようなものとしての、一枚のスカーフを表現していただきました。色は、赤、青、黄の3色の展開で作ってもらいました。

具体的な花を描くということではなく、色を重ねて、その痕跡を残す作業をしてもらったわけです。とはいえ、例えば赤色のものだと、椿の花が落ちて重なっていくようなイメージとか、そうしたイメージは伝えました。黄色は、藁が揺れているイメージ、青色は、水や海というイメージ、というように。

なるべく、鑑賞者の想像性や記憶の中にある風景と重ねられるようなものを目指しました。

冨田:

せっかくお越しいただいているので、古屋さんにもお伺いしたいのですが、今回はいつもの制作スタイルとどう違いましたか?

古屋(敬称略):

そうですね、私は普段はろうけつ染の技法で絵画的表現で作品を作っています。当然ですが、布を扱いながら、ものをどう生み出すか、どう作り出すかっていうことが基軸にあるわけです。

今回、前島さんとコラボレーションしたわけですが、前島さんの考え方は、環境全体のなかでそれがどう見えるのかっていう視点なので、そうした中で一緒に同じ作品を作っていくって、どうなるんだろうって思って、正直、最初は戸惑いもありました。

でも、話し合いながら作品を作る過程で、私自身も色々なことも新たに分かりました。染料の流れとかを見ながら、どのようにしたら、どういった表現が出来るかとか、そうしたことを調整しながら作りました。結果的に面白かったですし、実際ここで展示してみると、いいものが作れたなって思えました。

前島:

今回展示している作品は、どれも実験的なところがあるんですが、このような試みは信頼関係がある程度ないと、出来ません。

その作家さんの人間性とか、その人が持っているものの全体性を信頼して、作り上げていくっていうことが特に大事な作業だと思います。

 

 

 

身体のリズムを取り入れる

冨田:

2人の作家さんとのコラボーレション作品においても、どちらも手仕事による繰り返し、手の跡を残していくことが一つの大きなテーマになっているのかと思います。

では、前島さんのソロワークについてもお話いただけますか?

前島:

はい。今回展示しているのは、僕のドローイング作品になるんですが、これらは、絵を描くということでなく、点を打ち続けるとか、線を重ね続けるとか、そうした行為を通じて、時間を積層させていくような試みで、それを展示しています。

冨田:

つまり、すべて、手から生まれた点や線ということですね。

前島:

そうですね。

 

冨田:

普段のグラフィック制作などのお仕事では、当然パソコン上での作業が多くを占めていますよね。今回の作品は、あえて手で生み出した線や点を基調とした意図は何でしょう?

前島:

そうですね、やはり、とみひろさんの場所でやるっていうことが一つ大きいです。

とみひろさんが、手仕事を大事にしているっていうことには、とても共感できるところなので。手って、一番の道具だと思うので、手仕事にフォーカスを当てて作品を編集しました。

冨田:

嬉しいです。例えば、ここに展示している「とみひろ紬」はすべて手作業です。染め、織りも手仕事で紬にしています。現在は、養蚕にも取り組んでいます。今、市場に出回っている手織のものって少なくなっていて、ほとんど機械織になってしまっているのが現実です。

前島:

手織の着物と、機械織りの着物だと、違いってどのように出ますか?

冨田:

着心地が違いますよね。手織だと、やっぱり呼吸感というか、呼吸のムラみたいなものが出てきて、機械織だと綺麗に均一にすーっとなります。実際含んでいる空気の量とか違っているんだと思いますね。

手織だと、凹凸が出来たり、シワがよったりすることもありますから。それがかえって着心地を良くするということがあります。

前島:

なるほど、面白いですね。今回展示したドローイングは、まさに手グセを大事にした作品です。手の線って、そのときの自分の体力とか、体のコンディションが大きく影響していますが、それも含めて、手作業という道具性の良さなのかなと思います。

冨田:

でも、前島さんが日頃取り組まれてるグラフィックやデザインの仕事って、緻密に計算して作り上げていくような世界ですよね。今回は、手グセとか、偶然性とかを大事にしてらっしゃいますが、ある意味そういう世界と日頃取り組まれている仕事って、対極的でもあるんじゃないですか?

 

前島:

多分、こうした手でのドローイングとかを僕自身やり続けているのって、どこかで、デザイン的な仕事の中に、そうした偶然性や身体性の要素を入れていきたいって思いがあるからなんですよね。

人間が持っているリズム感みたいなものを、かちっと決められた、ミリ単位で計算されているような世界に収めていって、形としてアウトプットしたいって思いがあるのかもしれないです。

冨田:

あらゆる事がデジタル化していく社会の中で、人間味を欲しがっているっていうのはあるかもしれないですよね。

前島:

スマホが当たり前になった社会の中で、チェキみたいなプリント写真が再び流行ったりもする。時代とともに、環境は変わるし、人が変われば求めるものも変わると思います。アナログとかデジタルとか、そうした境界ではなく、もっとボーダレスに、人が求めるものに沿って、ものの価値もどんどん変わっていくんだと思います。

作り出すために越境する

冨田:

この「YORIAI1-1-1」を初めて、ちょうど半年経つんですけれど、違う分野で活躍されている様々なアーティストや作家さんと対話することで、着物っていうものを成り立たせている価値についても、もっと分解して考えられるようになったと思うんですね。

前島:

なるほど。

冨田:

例えば、今回の展示に対する最初の印象を率直に言いますと、まず、これらの作品をどう見たらいいだろうっていう戸惑いを持ったんです。どのように理解したらいいんだろう、どの見方が正解なんだろう、っていうような意識を持ってしまって。

でも、前島さんと話していくうちに、これらの作品をどう見たらいいかとかではなくて、この作品を通してどんな感覚を持ったのか、そのことを大事にすればいいと、つまり自分の感覚にもっと素直になってみたらいいんだっていう、そのことに気がついていったわけです。

前島:

ええ。

冨田:

それで、実はそのことって、着物と似てるなって思いました。

前島:

どういうことでしょう?

冨田:

実際には、着物も自分の好き嫌いで着ればいいんですよ。自分が好きなように、好きな時に着ればいいんです。ですけど、どうやって着たらいいか分からない、どんな場所に着て行けばいいのか分からない、どの着物を着たらいいか分からないというように、皆さん、難しいものと頭で考えてしまって、それで立ち止まってしまう方がたくさんいらっしゃいます。

前島:

そうですね。

冨田:

僕からしたら、着物も自分の感覚で自由に着たらいいんですよね。とくに、紬なんかはそうで、自分が好きなように好きな時に着たらいいものなんです。多少のルールはありますが、この帯は、この着物じゃないと合わない、というようなことは全くありません。自分の感性で、自分のこだわりを信じて、それを大事に着ればいいと思います。

つまり、自分の感覚に素直になってみる、ということの大切さです。そこを大事にしてほしいという点では、前島さんの作品への考え方と、僕の着物への考え方って、共通しているなと発見できたわけです。

 

前島:

そうですね。異分野とのコラボレーションって、何かを発見する上でとても大事だと思います。

今回の展示で、僕自身も作家さんとコラボレーションしながら制作して改めて感じましたが、ある分野にいると、その分野の中で守らなきゃならないルールとか、そういうものがあるじゃないですか。それを一度脱却するためには、誰かとコラボしたりしないと、新しい違った表現って出来ないと思っていて、その部分では、色々な人の考え方とコラボレーションしていくってことが大事かなと思ってます。

冨田:

そうですね。

違う分野の人だから発想することが出来るっていう点では、今回の展示作品の中に、着物の反物を使ったスツールがありますよね。

前島:

はい。このスツールは、2016年に日伊国交樹立を記念してローマで開催された銘仙着物の展覧会「VIVID MEISEN」の中で展示したものなんです。50年前の銘仙の反物を使ってスツールを作っています。

昔作られていたものを、現代にあたり前にあるもの、例えば椅子やテーブルとか、そうしたものに置き換えたら、どのような見え方になるんだろうということを、検証したかったんです。

冨田:

なるほど。

前島:

普通に考えたら、昔の着物の反物が、現代のスツールになるってことは、あり得ないじゃないですか。

でも、あり得ないと思っていても、そういう境界線って、どんどんなくなってきている気がしています。

冨田:

そうかもしれません。先ほど話していた方からも、反物を洋服に使ってみたら、といったご意見をいただきましたし、実際そういう考え方は重要だと思います。

 

 

前島:

日本では、伝統技術に携わるような職人さんがどんどんいなくなっていますよね。逆に、海外から弟子入りする人がいたりして、そうすると、海外の文化を背景としたローカル性が、日本の伝統技術と調和する状況が生まれてきている。そうなれば、確実に日本のものづくりにおいても、変化って現れてくると思うんですね。

冨田:

ええ、そうなりますね。

前島:

グラフィックデザイナーにおいても、かつては、単に紙面を作ればいいっていうのが一般的だったかもしれないけれど、そうではなくて、もしかしたらデザイナーが建築を考えなければいけないという時代になるのかもしれないですし、つまり、特定の分野領域というものを超えて、他領域を横断しながら行われるものづくりという方向になっていくと思います。

冨田:

僕もこのYORIAI1-1-1を通じて、呉服業界以外の色々な方の考え方に触れてきたわけですが、そうした中で最近考えることに、着物ももちろん大事なんですが、着物を作っている要素としての”染織”、その染織技術がとても大事ではないか、その価値を広く伝えることが重要ではないか、と思うようになりました。

そこを起点とすれば、着物だけにとらわれず、色々な広がりをもって、様々な人や分野と繋がってコラボレーションしていけるんじゃないかな、と。

前島:

おもしろいですね。

冨田:

呉服の分野でも、そうやって様々な領域と横断的に交流を重ねながら、同時に、着物の価値を高めて、そして守っていくことが重要だと思っています。

前島さん、本日はありがとうございました。

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