最古の染料 最後の―貝紫―

地中海に伝わる幻の染料
約3600年前、地中海の海洋国フェニキアから始まり、長い歴史を経て幾多の逸話を彩った貝紫。太古より大変珍重され、「王」にのみ許された色でした。しかし、東ローマ帝国の滅亡と共に、地球上で最も長い歴史を持つ貴重な染料―貝紫―は歴史から姿を消します。

唯一貝紫を守った民族
約400年後、幻となっていた貝紫は、ミステカ族(メキシコインディオ)の生活の中で奇跡的に発見されます。ミステカ族の男たちは、愛する女性のため、村から300㎞も離れた海岸へ向かい、荒波が打ち寄せる岩場で、生命を賭けて糸を染める―。それがミステカ族の掟であり、「婚約の印」なのです。こうして彼らは貝紫を数千年も染伝えてきました。
語り継がれ新たに織り成す貝紫の物語

この世に遺された最後の糸
1978年、メキシコで貝紫の調査研究・染色が開始―。今日ここに残る貝紫の糸は、この時に染めたものです。その後、保護条例による貝の禁漁と現地の急激な近代化によって、永く守られたミステカ族の掟も風化、そして二度と貝紫を染められなくなってしまいます。

貴重な貝紫の糸は日本へ―
かつて偉大な王がこぞって愛したように、多くの人々を魅了した貝紫。三年前に惜しくも閉店した「青山みとも」と共に、再び貝紫は「幻」として私たちの前から姿を消そうとしました。今日ここにある貝紫は、縁あって全て「とみひろ」へと引き継がれました。こうして貝紫の物語は次の世代へとまた語り継がれることになったのです。